森まゆみ著『女三人のシベリア鉄道』
わたしは、古本屋で単行本を買ったので、貼り付けた文庫本と表紙がちがう。単行本の表紙写真は車内の窓際のテーブルの上にリプトン紅茶を淹れたカップやリンゴなどが雑然とおかれている。
女三人とは、与謝野晶子、中條百合子(のちの宮本百合子)、林芙美子。ほかにも、シベリア鉄道に乗った女性たちの名もあがる(中條百合子と一緒に住んだ湯浅芳子など)が、この三人のシベリア鉄道の旅を追いながら、筆者がシベリア鉄道に乗りパリまで鉄道を使って旅するお話。そのためにトランクいっぱいの本を積み込んで、資料を読みながらの旅だったらしい。
現在ならともかく、あの時代女一人でパリまで行った与謝野晶子という女性のすごさがある。
森まゆみが引用した下記の文章が印象に残った。
次男秀の嫁道子の文章から
P105
道子はあるとき、
「お義母様とお義父様は同じ仕事をされ、さぞ楽しかったでしょう」
とうっかりいった。晶子の居ずまいが変わり、経机を手で押すようにして道子のほうに向きを変えた。表情が厳しくなり、いつもよりいっそうものしずかにいった。
「人生というか、人の一生はそんなになまやさいいものではありません」「結婚したころは家で歌会をすることが多く、私は夕食のしたくをしながら、歌を作ったりしました。運良く手早く仕事ができるように生まれついていたので、台所仕事をしても、ほかの人と同じ速度に歌ができたものと思えます。でも一方では、芸術の競争相手でしたから、妻であることなど、かえってよくないことです」
いまだって、女が仕事すると家事が思いもの。いかばかりだったか。
それはともかく、シベリア鉄道に乗ってみたい。でも時間がないからばあさんになってからだな。