胡桃の木の下で 

日記ではなく備忘録になっています。忘れっぽくなってきたので。

安田純平『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』

 

ルポ 戦場出稼ぎ労働者 (集英社新書)

ルポ 戦場出稼ぎ労働者 (集英社新書)

 

 『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』 安田純平 2010年 (集英社新書

 2007年、安田純平さんがイラクの戦場に料理人として働いた時のルポ。

 安田さんはすごい。普通出来ない事だ。英語ができるだけでなく、コミュニケーション能力があるんだね。それに過酷な料理人の仕事もこなしてシェフにまでなり、取材したことの記録などもつけていた。タフだ。

 このルポでわかったこと。戦争は、民間の業者が後方支援や日常の生活を支えて成り立っている。そして参入している企業はアメリカなので、安い材料や人材を使って、いかに儲けるかがテーマ。つまり戦争は儲かるという考え方がある。そして、武器商人だけでなく、戦場で儲けるシステムができてしまったら、戦争をやらないことは困ることだ。企業からの要望もあって、アメリカは戦争を続けなければいけないんじゃないかと思った。

 兵隊が死ねば補償もあるだろうが、民間のアジアからの労働者は死んでもカウントされない。補償もないだろう。使い捨ての人材なのだ。それでも、他よりはお金になるので出稼ぎに行くが、戦争地帯で働くのは神経が磨り減ることだというのがよく書かれている。

 笑ってしまったところ。イラクの肉が質がいい。とくにラム肉は美味しい。イラク経済制裁がされているから、アメリカから配合飼料が入ってこない。だから家畜は広い草原で放し飼い。結果として質のいい肉ができて、近隣でも有名になる。キューバ経済制裁で農薬などの輸入ができないので有機農業が盛んになった。

「反米国家になると、むしろ人間的な暮らしになるという側面もあるのではないかと思う。(P143)」

アメリカの属国のような国、日本は、農薬の使用量は世界一に輝いているらしい。放射能も農薬も添加物も抗生物質もたくさん体内に取り込んで、それでも元気で生きていられるという実験場なのだろうか。美味しいラム肉を食べてみたい。

 そして一番怖いことは「テロ」。「テロ」と叫ぶほうが正しくて、国民も「テロリストをやっつけろ」を大合唱する。憎い側に属する人間は痛めつけてもいいというように暴行が行われても「テロ」という言葉に隠される。醜い人間はどちら側なのか。神様は本当にいるのか、見ているのかと絶望する人々がいる。どうぞ、政府の思惑通り熱狂しないで、これが正しいことなのか一歩引いて考えてほしい。また、わたしたちは残虐な行為をするのではないかと怖い。

〈P69 しかし、「テロリスト」にはそれは必要とされておらず、政府側が疑いを抱けばそれで殺していいことになっている。事実上、政府が誰に対しても当てはめて自由に処刑できるということだ。逆らう者は「テロリスト」として殺せばよい。「対テロ戦争」の最大の意義はこれである。〉