映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』

 

ヒューマン・フロー 大地漂流(字幕版)

ヒューマン・フロー 大地漂流(字幕版)

  • 発売日: 2019/04/17
  • メディア: Prime Video
 

 『ヒューマン・フロー 大地漂流』 2019年公開

 監督:アイ・ウェイウェイ

 公式サイト:http://www.humanflow-movie.jp/

 

 1年前、Amazonプライムのセールで『アイ・ウェイウェイは謝らない』を観て

 アイ・ウェイウェイのファンになったことは下のブログに書いた(下記参照)。そしてわたしは、横浜ビエンナーレアイ・ウェイウェイインスタレーション作品の救命胴衣に手で触れたことを思い出した。

  https://meme2008.hatenablog.com/entry/2019/01/05/145154

 この連休中のAmazonプライムで、『ヒューマン・フロー』が100円セール。ぜひ、たくさんの人に観てもらたい。

 

 アイ・ウェイウェイがこの映画を作ったのは、インスタレーション作品だけでは足りなかった。その救命胴衣を着けていた人がどういう人なのか、自分の目で見て作品にしたいと思ったのだろう。

 映像は美しい。アイ・ウェイウェイの美意識に彩られている。難民や破壊はもっと悲惨なものだという批評も出てきそうだが、そういうのはジャーナリストに任せればいい。アイ・ウェイウェイは難民が普通の生活を持つわたしたちと同じ人間なんだと言いたいのだと思う。悲惨な状況のかわいそうな人たちではなく、平凡な生活から追い出され逃げてきた人たち。

 日本では、難民の方たちがスマホを持っているだけで贅沢品を持っていると思う人がまだいるようだ。スマホは海外では月々の料金が安い。日本だけがバカ高い。スマホは命綱なのだから、手放せない。

 ボートで着の身着のままで到着した難民たちがやることはスマホで無事を家族に伝えること。ボートからおりた人たちは、持ちものはリュックくらい。リュックもなくスマホだけを体の中に防水袋に入れ首に下げて逃げてくる。家財道具も服もすべて置いてくる。スマホがあれば懐かしい家族や友達の写真が見れる。家族や親せきに送金もお願いできる。難民の支援情報や国境情報、どこでなにを申請するかという口コミ情報がわかる。家族のほうもGPS機能で、子どもが海を渡ったことを確認できる。スマホなしでは難民なんてしていられない。

 難民がきちんとした服を着ている、という言葉も聞いたことがある。難民は戦後の焼け跡に立つ日本人のようにボロボロの服を着ていないといけないと思っているのかもしれない。でも、現代では人道支援が欧米では発達していて、難民の方にすぐに服の提供ができる。ボロボロのものではない。そんなものを用意していない。ほとんど新品である。(日本での寄付の考え方が違う。着古された服を寄付する方がまだ日本にいると聞いたことがある。) 新品のブランド物もある。もしかしたら企業も協力しているのかもしれない。サイズがあわないかもしれないけど、手に入れたもので目指す国までいく。リュックや毛布なども支給されるのだろう。ボートをおりて国境を目指し歩く人たちは、荷物を抱えている。映画の中でも男の子が新しいブーツを履かせてもらう場面がある。前にはいていたのは汚れたヨレヨレの靴。「ビニールを取ってちょうだい」と子どもが母に言うから新品のブーツなのだろう。たくさんの売れ残りを寄付している団体もいるのではないだろうか。なぜ、困っている人がスマホを持ったりアクセサリーしたり素敵な服を着ていると怒る人がいるのかわからない。いまどき当たり前である。ユニクロのもらいものでも、素敵なシリアの女性や立派な黒人が着るとステキな服に見えてしまうからかもしれない。歴史ある民族である。人間の美しい顔つきがある。それをアイ・ウェイウェイは撮りたくなるのがわかる。

 

 もし、自分が難民になるときに何を持っていく? わたしは家にデスクトップパソコン、ノートパソコン、タブレットもある。でも、せいぜいリュックサックひとつにまとめるとしたらスマホと充電器を選ぶだろう。ブログとか日記を書くためにノートパソコンも持っていきたいが。難民キャンプでも充電する場所が必ずあるようだ。わたしたちが難民にならないとは限らない。福島では着の身着のまま避難した人たちが帰れなかった(今でも)。大きな災害で国内難民になることはあるし、日本を出なくてはいけない災害や亡命しなくてはいけないような危ない国になっていないとも限らない。

 

 また、難民になれる方は、お金がある人たちだとも考えられる。ボートに乗るためには仲介業者にお金を渡さないといけない。トラックに乗せてももらうにもお金、ボートに乗るまで待機させられるにもお金。食べるためにお金が必要。それだけのお金がある人だけが難民になれる。貯金や売れる資産があった人。国内では中産階級に属していた人たち。だから、わざわざ難民にならなくても国が平和なら平和で普通の生活ができた。農業なら自給自足で生活できた。細々貯めたなけなしの貯金を使って難民となった。別に「いい暮らしがしたい。そうだ難民になろう」などというものではない。いい暮らしはあった。仕事もあった。それを投げ出したのは、命が危ないから。死ぬよりは財産を投げ出し、お金をかき集めて国を出るのだ。ということは、国に残った人たちは愛国心のある人ではなく、お金のない人たちが多いのではないだろうか。また、病人や高齢者を介護しなくてはいけない、自分が病弱だからなど、なにか事情のある人たちが多いのではないだろうか。

 私たちの国が住める状態ではない。いつ爆撃されるかわからない、いつ警察が来て連れて行かれ拷問され虐殺されるかわからない時が来た時、難民になれるだろうか。ブローカーに高いお金をだして飛行機の席を確保しないといけないかもしれない。高いお金を払って、韓国やロシアなどへ行く密航船に乗るしかないかもしれない。だから、貯金がない、病気がある、動けない家族がいる場合は無理である。脅えて暮らすしかない。

そうか、老後のため、いざとなったら国外脱出のためにも貯金しなくちゃと思うのだった。

 

 映画の冒頭で「2003年アメリカ主導の多国籍軍イラクに侵攻して26万8000人が死亡し、400万人以上のイラク人が故郷を追われた」と語られる。いつも数字数字だ。わたしたちはその数字を見て、なんとも思わない。

 26万8000人。日本の中核都市の要件は「人口が20万以上」である。2020年4月現在60市が指定されている。26万8000人に近いのは、青森市盛岡市茨木市あたりだろうか。その市に住む方全員殺されたということだ。400万に以上が故郷を追われたというのは、政令指定都市のうちで人口ナンバー1の横浜市が、370万人代なので400万人に近い。それだけの人が他所へ散らばっていく。

 これが中東やアフリカではなく、欧米で爆撃が起こって26万人以上が殺されたら、どうなる。大きな国際問題になり、新聞は毎日1面にニュースを流し、世界の人たちがプラカードを持って立ち上がるかもしれない。でも、中東やアフリカはただ数字が流されるだけ。毎回まいかい、わたしはそれを聞き流している。

 

 中東、アフリカ、ミャンマーロヒンギャン、パレスチナ。あらゆるところで迫害されている人々が2020年になった今でもいて、いわれなく殺されていることを知らないといけない。何ができる訳ではないけど、知らないより知ることで、わたしたちが加担者なのかもしれないと思い、もっと謙虚に人の幸せを祈っていいのではないか。批判をする前に。差別をする前に。