胡桃の木の下で 

日記ではなく備忘録になっています。忘れっぽくなってきたので。

齋藤陽道『異なり記念日』

 

異なり記念日 (シリーズ ケアをひらく)

異なり記念日 (シリーズ ケアをひらく)

  • 作者:齋藤陽道
  • 発売日: 2018/07/23
  • メディア: 単行本
 

 『異なり記念日』 齋藤陽道 (医学書院 シリーズケアをひらく)

 

 『暮らしの手帖』で齋藤陽道さんの名は、連載エッセイを読んでいるので知っていました。

 聴覚障害を持つ方です。パートナーも聴覚の障害を持つ方。でも、陽道さんはご両親に難聴はなく、パートナーのまなみさんは両親もきょうだいも生まれつき耳が聞こえない、日本手話が母語の「デフファミリーDeaf family」であるという。(P54)

 ひとくちに難聴と言っても、いろいろなグラデーションがあるし、生活もちがう。聞こえる人からみたら不便だと思うだろうけど、それが生まれつきだから普通なことでもあるのかも。

 長男が4年生の時に山の家から県庁所在地の町へ引っ越した。隣のとなりに同級生T君の家があって、その子と仲良くなり、そのお母さんからわたしはPTAや子供会のこと教えられて地域に入っていった。T君の両親は聴覚障害があった。でも、メールがあったので、わたしたちはメールで話し合うし、ちょっとしたことはわたしの口を読んでくれて意味が通じたので、交流するのに不便は感じなかった。ボウリング場では、一生懸命筆談で噂話をしたものだ。保護者会では誰かが会議の内容をT君のお母さんに書いて説明していた。T君は聞こえる子だったが、さっと親に手話で話す姿がかっこよかった。

 そういえば、長男が大学のときに難聴の学生さんについてノートをとるというボランティアをしていたな。あれはT君の影響なのかと今頃思いいたる。わたしは山の家に戻ってT君家族とも会わなくなった。年を取っていき、夫は片耳が聞こえなくなった。片耳だけでもいろいろ不便があるみたいだ。遠くで呼んでも返事をしなくなった。だんだん聞こえなくなっていくのになれないといけない。老いて難聴になる方は実に多い。どう対処し、世界への好奇心を枯らさないでいられるか。

 それにしても齋藤陽道夫婦のやさしさに感動するというかおそれをなす。はじめにでてくる道路で車にひかれた動物の轢死体(ロードキルというそうだ)を、道路から土に埋葬してあげるという話。たしかに道路に内臓をだして横たわる姿はかわいそうだ。カラスが内臓を突っついていたりする。

 真似したいこともいっぱいあるけど、車をおりて道路わきの土の上に動物を置いてあげることがわたしにはできない。見ないようによけて通っている。ほぼ毎日のようにロードキルを見るときもある。(先日は飛びたった山鳥とぶつかった。そのときは車をおりて見に行った。心のなかで鶏汁にしてやろうと思っていた。でも近寄ったら、山鳥はよたよた飛んで林にはいった。気絶していただけみたい。骨でも折れているかもしれない。鹿とぶつかって車が壊れて泣いている人はよくある。)

 ガラスのようにやさしさと感性をもった良心に育てられる樹さんは、ぜったい優しくも強い人間になりそうな予感がする。P137からの樹さんが空腹でおっぱいが欲しい時に泣くという手段は自分の親には通じないようなので、からだを動かしたり目をあわせる手段をとっているという話はすごい。全身で赤ん坊は親を観察しているのだ。

 知らない世界を知る、よい読書体験だった。