胡桃の木の下で 

日記ではなく備忘録になっています。忘れっぽくなってきたので。

『シリアの秘密図書館』

 

『シリアの秘密図書館 瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々』

デルフィーヌ・ミヌーイ著 藤田真利子訳 (東京創元社)

 

 シリア難民というニュースはよく耳にしても、ニュースを読んでもよくわからない。

 この本を読むと、ひとつの側面は見えてくる。

 バッシャール・アル・アサドという大統領に反抗したダラヤの市民は「テロリスト」と名指しされ町ごと封鎖された。町も人も絶滅するほどの爆撃を浴びせられた。ほとんどが兵士でもない普通の市民。 早くに逃げ出さなかった人々。

 昔の話ではなく、本は2015年から2016年の1年間、著者がインターネットを使い、秘密図書館を作った若者たちとの会話で秘密図書館や市民たちの行動、爆撃の激しさと飢えを知る。

 ダラヤが孤立したのは4年間。食料がなくなっても国連からの人道援助はなかった。やっと援助が来ても爆撃で妨害される。

 2011年の東日本大震災では、世界中が支援の手を差し伸べてくれたが、シリアに対しては、どうだったのだろう。ロシアとアメリカの思惑。中東の政治情勢。イスラム国のテロ。いろいろなものが錯綜して難しいのだと批評家が言うのだけど、目の前に飢えた人がいて、まいにち爆撃にあい、サリンまでまかれ、非人道的ではないなんてものではない目にあっているのに、私たちは知らないし、知らないふりをする。

 シリアは、キリスト教にもイスラム教にも大事な土地なのではないのか。豊かな土地。ブドウの木とオリーブの木の下で平和に暮らす土地。それなのに世界は沈黙した。

 いまもどこかで、ミャンマーウイグル自治区で市民が抵抗しては殺される。

 この日本でもかつては、戦争に反対しただけで捕まった。

 権力者は自分に反対するものが嫌いである。だから市民が知恵を持つことを嫌う。バカな市民でいいのだ。本など読まない。

 ダラヤの密図書館をつくった若者たちも本など読まない人が多かった。封鎖された町で娯楽もなく、本を開くことによって新しい世界が広がることを実感する。歴史、哲学、詩、心理学の啓蒙書。たしかにいったん知恵をつけてしまうと後戻りはできない。アサド大統領を賛美する本しかない世界にはもどれない。

 ダラヤは捨てられ、生き残った若者たちは脱出して、それぞれの地で生きている。大学に行って勉強したいだろう。みんなが元気に活躍していることを祈る。

 この本でシリアの人びとの姿が少しは見えてきた。気になるのは登場人物は男性ばかりだったこと。取り残されたダラヤ市民は女性もいる。女性は本を読めたのだろうか。

 

下の映像は、シリアのアレッポの破壊を空撮で撮った有名な映像。

Googleearthで、ダラヤの町を見てみたら、家の土台しか見えなかった。破壊された瓦礫は撤去されてしまったのだろうか。美しいシリアの街並みがもったいない。

そうして、兵士となれば命令で理不尽に人を殺すことに、命令に従うことに慣れ、冷酷になっていく。ダラヤの人たちは全員テロリストだとみんな本当に信じたのだろうか。わたしたち人間は権力者に操作されやすい。教育とは自分で考えないで操作されやすい人間を作っているのかもしれない。

 

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