胡桃の木の下で 

日記ではなく備忘録になっています。忘れっぽくなってきたので。

受験生

 長男は中学3年生の受験生である。
 塾には行っていない。夏休みに夏期講習ぐらいは行こうかと話して、息子が友達から大手塾の申込書をもらってきた。申込書は銀行引き落としでたくさん書き込む欄があって、そのとき私は試験中かレポート書き中で申込書を書くのが面倒になり、息子もたいして行きたくないので、塾はやめになった。
 受験生の息子が昨日、「お母さん、『サウンド・オブ・ミュージック』って観たことある?」と聞いてきた。「もちろん」と手を広げてオープニングを歌ってみせた。「いきなり高原で女の人が歌うから、みんな引いてしまったよ」と言う。音楽の時間に何回かにわけて映画鑑賞をしたそうだ。そして、「はじめはびっくりしたけれど、面白かった。エーデルワイスとか知っている曲があった」と感動していた。
 そう、去年の修学旅行のときに、息子たちは劇団四季の『ライオンキング』を観たのだ。それに男子はブーブー言っていたらしい。他の学校は東京ドームで野球観戦なのに、「なんでお芝居なんだ。そんなのつまらない。野球みてぇ」と言っていた。息子は朝一番に新聞のスポーツ欄を読むおっさんである。
 「舞台は面白いよ」と言ったものの、こいつらには豚に真珠、猫に小判かもしれないと内心思っていた。お母さんなんか高校のときから舞台を観まくったけれどねと諦め気分だった。ところが帰ってきた息子は、「劇団四季すげぇ」と感激していた。「よくあんなことができる」と役者の仕事に関心。お友達も最初ぶつくさ言っていたが、皆舞台にひきつけられ、寝る子はいなかったそうである。さすが劇団四季である。田舎のお馬鹿な中学生の心をつかむのだ。
 そういうわけで、純真なうちの受験生は最近ラーメン作りを「極めた」と言って、土曜日も友達よんでごちそうをしていた。極めた理由は、インフルエンザで中学が休校になったとき、長男は元気だったので父から昼ごはん当番を押し付けられたのだ。主にラーメンを作り、時間をかけてカレーまで作った。父の仕事であるはずの風呂掃除も押し付けられた。私は「買い物もしておいてくれたら助かる」と言ったけれど、長男は「インフル予防のため外に出たらいけないの」と断った。我が家は、油断すると暇な人に家事が押し付けられるのである。
 家にいると家事をやらせられるので、受験生は「早く学校いきたいな」とぼやいていた。
 学校大好き受験生である。
 夕食のとき、受験生は「今日は、達磨さん転んだをやって面白かった」と話す。達磨さん転んだでも高度な達磨さん転んだなのだそうだ。前転や逆立ちやいろいろ使って動くとのこと。そのほか「チョイ悪ごっこ」。じゃんけんとか負けた人が、職員室の電気を消したりのチョイ悪をするのだそうだ。そして「先生に怒られたよ」と喜んでいる。
 これは退行現象なのだろうか。大人になりたくないと、最後に仲間たちと義務教育期間にやった思い出の遊びを再現しているような感じだ。
 高校になれば別々の道に行くものね。ところが息子から不吉な話を聞いた。長男は高校の滑り止めに私立某男子高校を受けることに決めていた。他の友達はもっと進学に力を入れている私立高校に行くと聞いていたのに、ここに来てほとんどの友達が私立某男子校にするとのことだ。もちろん公立高校に受かることが至上命令であるが、皆で仲良く男子高校に行って、相変わらず馬鹿やっている姿も浮かんできてしまうのである。いけない。悪い予感は消さなくては。
 千葉の母からの電話で、弟の息子(甥)は小学5年生で中学受験のために毎日塾通いだそうで、娘(姪)は某付属小学校で優秀な成績をとっていると自慢げに話される。「ところで、そっちのほうはどうなの」と聞かれる。「お馬鹿している」とも言えず、「みんな頑張っています」と答えるのだった。この差が将来の収入とかに関係するのだろうかとも考えるが仕方ない。息子たちを見ていると、どうにか生きて這い上がっていくだろうという気もしてくるのだ。