胡桃の木の下で 

日記ではなく備忘録になっています。忘れっぽくなってきたので。

駒村吉重

『山靴の画文ヤ辻まことのこと』で駒村吉重のことを知りました。それからファンになったといっても、他の作品を読んでいないと思いだし、図書館にあった3冊を読みました。

煙る鯨影

煙る鯨影

まず、『煙る鯨影』(2008年)を読みました。これが一番面白かったです。鯨のことは何も知らずに、鯨を見てみたいと思っていました。
食べる鯨に関しては、どうでもいいと思っていました。
ニュースで、鯨が日本の名誉のように謳いあげられると、意味わかりませんでした。
鯨を食べなくても生きていけるし、愛着もないです。
子どもの頃、学校給食に鯨の竜田揚げが出たという記憶はあるのですが、味は忘れました。
鯨も鰻もマグロも普段食べないし、高くて買えないので、資源が減っているのなら、無理して食べなくてもいいじゃないと思っていました。

でも、下記のように作者が書くように、鯨はナショナリズムではなく、パトリオティズム的なものとわかりました。
隣のおんちゃんがうちの山のマイタケはうまいし、熊の味がいいと言って山に入るのと同じ匂いのする男たちの物語がありました。海の男たちの鯨との格闘。地元の鯨料理。
そういうものとは関係なく政治的なものがあり、産業があり、国際情勢があり、単純ではない鯨なのです。
でも、調査捕鯨の捕獲量と利益には驚きました。これは、調査を越えているのではないかと思いました。


 

 ときに捕鯨は、昂揚するナショナリズムとからみあって「虐げられた日本」の象徴にまつりあげられてしまうことがある。過激な賛成派は、黒衣の発揚とばかりに、
「日本はただちに商業捕鯨を再開せよ」
「IWCなど脱退してしまえ」
 などと、敵対心もあらわに語気を強める。そんな論調のなかで調査捕鯨は、ややもすると死守すべき民族のアイデンティティといった色調で語られたりもする。
 ただ、わかりやすい「攘夷論」と「正義対不正義」の図式だけでことが語られるほど、この世界は簡素にできてはいない。
 まずもって、だれにミンク鯨の商業捕鯨を再開させたいのか、いっぱんの捕鯨賛成論者でも主語の部分をただちに言える人は少ないのではないだろうか。つまりは、小型捕鯨船の存在と実情を知っている人、と置き換えてもいい。
 ここが論点から抜け落ちてしまうことがしばしばあるのだが、IWCで日本政府が求めているのは目下、勝丸ら沿岸の小型捕鯨業者が小規模のミンク漁を再開するための許可なのである。
 その一事をとりあげるなら、環境や種の保存という観点からみても、日本の要求は極めてまっとうで、控えめかもしれない。IWCに憤る人々の声がどうしても攻撃的になってしまうのも、わからないではない。
 だがわきに目を転じれば、縮小を余儀なくされる鯨肉市場に、調査捕鯨によって大量の肉が供給されている動かしがたい現実がある。そのことも、我々は直視しなければならない。
 では、難しい仮定だが、調査の研究結果が反捕鯨国側に理解され、小型捕鯨船がついにミンク漁を再開できたとしよう。そのとき一定の役割を終えた調査捕鯨は、打ち切られるのだろうか。
 国際政治や水産行政、海洋研究といった多面的要素からなる巨人の実像を、私はよく知らない。ただそんな私でも、多くの役割を課せられた彼(巨人)が、捕鯨の世界からすんなりとは退かない。退けないことぐらいの見当はつく。ミンク漁によって零細の経営がいくらか安定したとしても、依然として専売公社の姿に似た巨人は、市場に強い影響力を維持することになるだろう。著しく体力の劣る小型捕鯨船は、同じ土俵で消費者をかくとくしていくしかない。
 彼岸の先に開ける業界の青写真、言い換えれば商業捕鯨と調査捕鯨の到達点が、私にはいまひとつ想像できないでいる。

鯨とりが良いか悪いか簡単には言えないことはわかりました。
千葉に帰ったら、「たれ」を買って食べてみたい。

現在の捕鯨はどうなっているのか。

南極海の調査捕鯨中止という記事が2014年にあります。
この本が書かれてから、捕鯨の世界も変わってきたのでしょうか。
勝丸の人々はどうしているのか、気になるところです。



下記は、2015年11月の朝日新聞の記事です。

水産庁は27日、中止していた南極海の調査捕鯨を再開すると発表した。2015年度から12年間、ミンククジラを年333頭捕獲し、商業捕鯨再開に向け、生態などを調査する計画。

 再開は「年度内」としているが、南極周辺の気候が穏やかな季節を選ぶ必要があるため、年内にも調査船が出発する見通し。

 南極海の調査捕鯨は14年3月、国際司法裁判所(ICJ)が「違法」との判決を出して以来、中止されてきた。日本は14年11月、調査捕鯨再開に向けた新計画を、国際捕鯨委員会(IWC)に提出。ミンククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラの3種類だったのを、比較的小さく、泳いでいる数の多いミンククジラに限定。捕獲数も従来の3分の1程度に減らし、殺さないで皮膚だけを調べる調査なども追加。27日、新計画を始めるのに必要な手続きを終えた。ただ、欧米先進国の多くが捕鯨に反対しており、環境保護団体からの妨害も予想される。

 日本は14年度、北西太平洋でも、調査捕鯨で200頭近くを捕獲している。


あと、2冊の感想はまたいつか。

ダッカへ帰る日 故郷を見失ったベンガル人

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お父さん、フランス外人部隊に入隊します。 (廣済堂文庫)

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