梅を干す
去年、下記の詩を県の芸術祭に送ったら、入選していた。
はじめて応募した。無料だし、メールで送れて簡単なところが良かった。
芸術祭の冊子ができたようなので、本屋で立ち読みした。(ただの入選者には送ってくれないようだ。)
評には、途中からSFになっていて、意見が分かれたが・・・と書いてあった。(少しうろ覚え。)
SFではないよ。世界中で難民があふれている。ウクライナの難民には世界中がやさしいけれど、それでもみんな家と今までの生活を捨ててくる。それがどれほどのことなのか。まだまだ想像もできない。福島で避難した人たちも難民だ。梅干しや漬物の甕もそのままだったろう。廃墟の中で見つかっても、放射能で食べたらいけないと言われるかもしれない。
こんなに虚しくも悔しいことがあるだろうか。
梅を干す
梅雨があけた
太陽が痛いくらいの光線を浴びさせる
いまだいまだ
大きな笊に塩漬けにした梅を並べる
ときどき梅をひっくりかえす
ぜんたいに太陽光線を浴びて
百年先まで生きのびる食べ物をつくるために
冷えたご飯に梅干しを置き
紫蘇に茗荷をのせて
ひえた茶漬けにする
梅干しを小さな甕に入れ、
戸棚の奥におく
毎年貯めた非常食
百年後に希望はあるか
だれもがしあわせに
ユートピアはあるだろうか
それとも緑に覆われた
廃墟の中から
梅干しは出てくるだろうか
難民となるときはなにをもっていく。梅干しをリュックの底に、スマホと一緒にいれておく。米も大事だ。「あまりたくさんは持てないよ」と母さんはいう。
空襲がはじまる
はやく逃げなさい
逃げたって放射能は追いつてくる。海岸に出た。船を待つ人でいっぱいだ。座りこんで、
持ってきた梅干しのおにぎりを食べる。食べる前にスマホでおにぎりの写真を撮る。となりで女の子がうらやましそうに見ている。
わたしはガシガシ食べる。
このあいだまでスーパーにはあふれるほど食べ物があった。お金さえあればなんでも買えた。震災や台風で食べ物がなくなることもあったけど、すぐに平常にもどった。こんどは少しちがうなと思っているうちに、すべてが変わっていく。
「国連が助けに来てくれる」と誰かがいう。
船は見えず、飛行機も飛ばない。スマホでニュースを聞きたいけど、充電ができないのでやめておく。
リュックを抱きしめてじっとする。代わりばんこに寝る。寝ている間に荷物を盗られないように。むかしむかし、外国の海をわたった難民の救命ベストがいっぱい重なった写真をみたことがある。海で死んでいった人たちのベストだ。
「それはゴムボートだからよ。わたしたちはしっかりした船に乗るの」「乗ってどこへいくの?」「わからないわ」
かの地には、梅の木があるだろうか。わたしは梅おにぎりの写真をSNSに投稿する。「元気でいます。これから海をわたります」
そう書き添える。見てくれる友達はいるだろうか。
真っすぐ暖かい太陽の下に並べた梅
使い込んだ笊
百年後に残るもの