胡桃の木の下で 

日記ではなく備忘録になっています。忘れっぽくなってきたので。

米原万里『噓つきアーニャの真っ赤な真実』

 

『噓つきアーニャの真っ赤な真実』 米原万里著 (角川文庫)

 

先週は忙しかった。調べたいこともあって1泊2日で弘前へ行った。

日帰りでもよかったのだが、調べたら良い感じのホテルが朝食付きで3000円代で泊まれる。東北三県在住者限定プラン。泊まることにした。(そのうえ、4000円分のお食事やお買い物できるクーポンもくれた。青森、弘前応援キャンペーンのようだ。)

1日めは五能線に乗って深浦まで行ってみた。行きは「リゾートしらかみ」に乗り、深浦でおりたが、駅前の通りには何もなかった。いろいろなお店の建物はあるが、何年も前に閉まってしまったようだ。昼なのにパンひとつ買えない。みなさん、どこで買い物をしているのだろうか。車で行く離れた場所に大型スーパーがあるのかな。

目的だった「深浦文学館」は閉館していた。ホームページにはそうは書いていなかったが、冬でコロナ禍で閉めているのだろうか。役場の前で雪かきしている人に、「食べるところか、パンでも買えるところはないだろうか」と聞いて、食堂を教えてもらった。食堂で鯖フライ定食を食べた。

帰りは鈍行列車で弘前にもどる。

列車からみる日本海は見飽きない。この海を渡れば、大陸に行けるのだ。中国がありロシアがある。北朝鮮の密航船もあるのか、「不法入国取り締まり」の看板もあった。不法入国できるくらい近いのだな。大陸に渡れば、ヨーロッパまでは地続きなのだ。旅がしたくなる。若い時に中国やロシアへ行っておけばよかった。

列車のすれ違いのたびに鈍行列車はとまってまっている。時間がかかる。暇なので、あまり見ないFacebookを開いてみた。

いちばんに飛び込んできたのが、某学芸員さんが「昨日、弘前に行って面白いカフェにいった」という記事だった。わたしは「いまから弘前にいきます」とコメントを送ったら、「18時まで開いているから」とのことだった。

弘前に着いて、ホテルに荷物を置くと、その「万茶ん」という茶店へいった。たしかにひろくて落ち着くいい茶店だ。

コーヒーとアップルパイをいただく。マスターにカフェの少し先に「まわりみち文庫」という本屋があると教えてもらった。

カフェを出るとすぐに、ほっこりした灯りのもれる本屋があった。

店の外に均一200円の箱の中に『噓つきアーニャの真っ赤な真実』が置いてあった。

迷わず手に取った。前から読もう読もうと思いつつ読んでいなかった。米原万里さんが亡くなったニュースも知っていた。

雪深い町で、この赤い表紙が呼んでいた。本とは何年もたってこういう出会いがある。

 

次の次の日、わたしは日帰りで東京へ行った。コロナ感染が広がる中だけど、取材があったのだ。御茶ノ水でおりて、湯島の「小川軒」でランチして、人のお話を聞いて、とんぼ返りで町の家に戻ってきた。

その往復の新幹線で『噓つきアーニャの真っ赤な真実』を読んだ。

わたしがよくわかっていない東欧の政治状況などが少しわかるように書かれていて勉強になる。

なにより、チェコスロバキアプラハにあったソビエト学校に通ったマリと同級生たちが生き生きと描写されている。ユーモアがある。大人になって、友人を訪ね歩くのだが、だれひとり死んでいなくてよかった。彼女たちが米原万里の死をどんなに悲しんだことか。ひとつの時代の終わりのように感じたのかもしれない。