胡桃の木の下で 

日記ではなく備忘録になっています。忘れっぽくなってきたので。

やまとけいこ著『黒部源流山小屋暮らし』

 

黒部源流山小屋暮らし

黒部源流山小屋暮らし

 

 図書館に本を返しにいくと、返却本の棚に目をやる。これからそれぞれの棚に戻される本。だれかが借りてきょう返した本。ときどき、面白そうな本がみつかる。この本も返却棚にあった。「黒部」「山暮らし」に惹かれ、ページをめくると黒部源流の簡単な絵地図がでてきた。雲ノ平! 北アルプスに通っていたころ、雲ノ平へ行ってみたいと頭の中で計画を立てたりしていたが、行くことのなかった場所だ。若い時に行きたいと思った時にはいくものだ。「雲ノ平」いいなと本を借りてきた。

 

薬師沢小屋で働くイラストレーターの山小屋体験記。

 

「はじめに」で

「いまでは見慣れてしまった河童橋からの風景も、山頂から眺めたほだ連峰の雄姿も、はじめてみたときには、日本にこんな風景があるのかと、歓声をあげたものだ。」(P18)

と書かれている。わたしも上高地からはじめて穂高の山々を見たときのおどろきは忘れない。こんなところがあるのかと。誰もがそう思う場所。いきているうちにもう一度行きたい場所。

 わたしも穂高の山小屋で2シーズン働いたことがある。1回目は、大学生の時。ハイシーズンに山小屋に入ったので、朝4時に起きて仕事。仕事が終わるのは夜中近く。「帰りたい」と弱気になったものだ。でも、そこを乗り越えお盆過ぎには登山客も減り、ケーキを焼いてお茶をしたり、散策にでたりできるようになる。

ヘリコプターの荷揚げも懐かしい。社長の大盤振る舞いで、アルバイトをヘリコプターに乗せてくれて、穂高を一回りした。あの風景は忘れられない。

2回目は仕事を辞めてふらふらしていたので、山で稼ごうとあがった。経験者ということで、スタッフのまかない担当になってしまった。一人暮らしだったので料理なんてしできなかった。おおきな料理本があり、まいにちそれを眺め、みんなに何が食べたいか聞いてつくっていた。あのとき、レシピがあればたいていのものは作れることを知った。でも、スタッフは80代のおやじさんから高校生のアルバイトまでいたので、みんなにあわせるのは大変。若者むけのメニューになるので、親父さんには焼きナスやあっさりしたものを別メニューでつくった。

 

本を読んでいると、忘れていた記憶あれこれが零れおちてくる。いまでは、だれとも連絡はとっていない。一緒に働いたひとりはなくなった。家族のように暮らしたけれど、山を下りれば住む場所も違うので会うこともない。みんな元気にしているのかな。感傷に浸ってしまう本だった。

 

雲ノ平。子育てがおわった高齢期にむかう私も行けるときがくるだろうか。