胡桃の木の下で 

日記ではなく備忘録になっています。忘れっぽくなってきたので。

ぐるりのこと

ぐるりのこと (新潮文庫)

ぐるりのこと (新潮文庫)

 これも新幹線に乗る前に買った本。
 内容は知らなかった。エッセイだから軽く読めるかと思った。
 それが、今自分の中でもやもやしていることが、言葉で紡ぎ出されていた。これが作家と言うものだと思った。

 この文章が書かれたのが2004年頃らしい。それから10年経ち、ますます胸が痛い方向へ国が進んでいるのを見て、作者が胸苦しくなっていることを考えると、私もますます苦しくなってきた。恐れや絶望や不安を抱えている人たちは多い。それなのに、なぜこの民族はまた来た道にもどるのか。
 私としては、美味しいものを食べて静かに生活したい。政治に関しても無力感がある。やれることといったら、署名と投票と政治的メッセージを送り続ける知人のFBに「いいね」を押すだけである。いったいなにができるのかと思っていた。
 この本を読んで、この苦しさのまま生きていくしかないんだなと思った。生活のぐるりのところを大事にしても時代からは逃れられない。

 博識の著者のエッセイで新しく知ったことがいくつか。
 戦時中も時局批判を書き続けた弁護士の正木ひろしもそのひとつ。
 正木ひろしが、彼が発行した『近きより』(第1巻第2号)から引用された言葉。

 

日本人の悪習二つ
 一、調子に乗りすぎること
 二、長いものに巻かれ過ぎること

 すごく言い当てている。時代時代に確かな人達がいることを心強く思おう。

 梨木香歩の作品は、『西の魔女が死んだ』を読んだだけだった。息子たちにもすすめて、息子たちも気に入っていた。ただ、どこかで出来過ぎのお話のような気がした。すごく好きな世界なのだけれど、作り物ぽいように感じてしまった。それ以来、梨木香歩を読んでいなかった。というより、小説を読む心の余裕と時間的な余裕がなかった。仕事が毎日小説を越えるような現実を見せられ、物語の方がかすんでしまっていた。
 しかし、たまたま新幹線用に買った3冊に出会って、物語もエッセイもじっくり読むということの大切さが蘇った気分だった。メッセージ性の強いものは嫌う人も多いけれど、作家や詩人は時代を過去・現在・未来と見据えていく人たちなのだから、時代のことを書くことは当たり前だと思っている。