胡桃の木の下で 

日記ではなく備忘録になっています。忘れっぽくなってきたので。

樋口直美『誤作動する脳』

 

誤作動する脳 (シリーズ ケアをひらく)

誤作動する脳 (シリーズ ケアをひらく)

  • 作者:樋口 直美
  • 発売日: 2020/03/02
  • メディア: 単行本
 

 

 『誤作動する脳』 樋口直美 2020年 (医学書院)

 

 医学書院の「シリーズケアをひらく」は何冊も持っている。一応わたしも専門職の端くれなので、とても勉強になる。

 樋口直美さんはレビー小体型認知症という診断がついている。まだ50代。

 レビー小体型認知症という診断がでるまで、うつ病の薬を6年近く処方されて具合が悪くなったり、症状への不安に押しつぶされたり、もがく姿が描かれている。

 本当に医療は絶対ではない。病院へ行ったからって解決しないことは多い。

 幻視がありありと見えたりすると、「レビー小体型認知症ね」と今では簡単に診断されるけれど、レビー小体型認知症はそれだけではなく、脳の誤作動による苦労、疲れやすさ等さまざまな症状があることがわかった。

 若年で認知症になった方々が自分の声をあげることで、認知症の方の気持ちが少しでも理解できるようになる。

 今回、そうなんんだとわかったこと。

 認知症になると料理ができなくなる。味が変わるといわれる。

 それは手続き記憶がだめになり、料理という複雑な工程ができなくなるためだと思っていたけど、嗅覚、味覚がうまく作動してくれないからだということがわかった。しかし、それも永遠に嗅覚がないわけではなく、ある日香りに気がつくこともある。たぶんそういう時は、心も脳も平和で安定している時ではないだろうか、「おいしい」と感じるときもある。

 また、認知症になると怒りっぽくなったり感情が抑制できなくなると言われる。前頭側頭型認知症には特徴的な症状だけど、ほかの認知症でも言われている。

 でも、それは怒りではなく哀しみ。自分ができなくなっている状態をどうとらえていいかわからずに苦しんでいるところに、家族の不用意な言葉に責められれば、怒りだしたくもなる。すべてが「認知症だから、怒りっぽくなった」「性格が変わった」と言われてしまう。その人はその人なのに、認知症になるとすべて「認知症だから」と片づけられてしまう。

 家族やきょうだいが認知症の方の前で「すぐに忘れる」「鍋を焦がした」「いくら言ってもダメ」「認知症だって努力しなくては」などと話す場面に同席したことがある。そのたびに、認知症という状態にいるので、要求してもできないことはできないのだと説明する。本人にマイナスな言葉を浴びさせたくない。自分だったらどういう気持ちになるだろう。誉めてのばしたいと思うが、家族だとなかなかうまくいかない。自分の親がきょうだいが変わっていくのを認めたくない気持ちもあるのかもしれない。

 でも、あまりにまわりからバカにされたら、認知症の方もますます心閉ざしてぐれたくなる気持ちもわかるな。「デイサービスなんか行かない」「着替えなんてしなくていい」。逆らいたくもなるよ。

 こういう本がでることで、わたしたちの認知症の方への対応も少しずつ変わっていくだろう。家にこもらないで、当事者の方が語ることは脳にも生活を保つのにもいいことだと思う。でも、田舎ではまだ恥ずかしいことだという気持ちが大きくて、人前に出ない出さないが多い。