署名のない風景
- 作者: 野見山暁治
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1997/11/01
- メディア: 単行本
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3月の「日曜美術館」で野見山暁治(ぎょうじ)が取り上げられていた。無言館の絵を集めた方でもある。芸大の先生をしていた割には、自由奔放で小気味のいい辛辣さがある。
「ものがありあまるくらい生産され、おまけに文化国家というお題目がついてからの日本はどうもおかしい。文化というものがどこかに祀られていて、わざわざそこに出かけてゆき、栄光に浴するものだと思っては困る。
文化とは、日々の暮らしのことなのだ。どのように生活してゆくか、その手だてのことだろう」(P28)
「決して美術館を憎んでいるわけではない。たまにぼくの絵も入っていることだし、これはやはり練りに練ってたいへんなお金をかけた最高の文化施設だ。ただそういういい環境というものは、電車で運ばれている乗客みたいに、移りかわる景色のように、作品をぼんやり眺めることになりやすい。雑誌をめくっていて思わず出合う新鮮さや驚きは、人によって選ばれ、人によって解説された絵を鑑賞するのとはわけが違う」
美術鑑賞好きなのですが、あの人ごみと行列を見ると萎えてしまいます。それでも頑張って美術館に入り込んだものの、すでに疲れてぼんやり眺めている自分がいる。あまり混んでいると、人の肩越しに観て、もういいやと思い、さっさと出てくる。何しに行ったんだ。
東京都美術館で「バルテュス展」が行われている。画集は持っているけれど、本物を観てみたい。でも、たぶん大混雑だろうね。平日には行けないし、諦めておこう。
なんだか、美術展に行ったことだけで満足してしまうところがあるのではないか。
日々の生活にどれほど美を取り入れているのか、美しく生活できているか。
「人間の知恵によって地球がこれほど狭くなったにもかかわらず、私は依然として戦争の予感にふるえている。いわばこの現在の平安な日々が、そのいっときの執行猶予のように思えてならないのだ」と、1997年のこの本で野見山暁治は書いているが、執行猶予の期限は迫っている不安が強くなってくる。
そうはさせてはならない。