ハンナ・アーレント 「真理と政治」
ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 (中公新書)
- 作者: 矢野久美子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/03/24
- メディア: 新書
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矢野久美子著の「ハンナ・アーレント」を読んだ。
ハンナ・アーレントの著作を読みたいのだが、分量が多く難解なので、時間がないと取り組めない。とりあえず、評伝などを読んでみる。
第6章 思考と政治 真理と政治を引用する
アーレントは「真理と政治」という論考の中で、政治的な領域を形づくり人びとが生きるリアリティを保証すべきものであるはずの歴史的出来事や「真実の真理」が、数学や科学や哲学の真理といった「理性の真理」よりもはるかに傷つきやすいものであると論じた。
「真実の真理」は、それが集団や国家に歓迎されないとき、タブー視されたり、それを口にする者が攻撃されたり、あるいは事実が意見へとすりかえられたりという状況に陥る。「事実の真理」は「理性の真理」とは異なり、人びとに関連し、出来事や環境に関わり、それについて語られるかぎりでのみ存在する。それは共通の世界の持続性を保証するリアリティでもあり、それを変更できるのは「あからさまな嘘」だけであると言う。「歴史の書き換え」や「イメージづくり」による現代の政治的な事実操作や組織的な嘘は、否定したいものを破壊するという暴力的な要素をふくんでいる、とアーレントは指摘した。そして、現代では、ナチズムやスターリズムの時代のイデオロギーとは異なり、回答ありきの問題解決パターンや「イメージ」こそが、エリートたちから大衆にいたるまでの無思考性や判断の欠如をうながしていると考えた。
1964年8月、トンキン湾でアメリカ海軍の駆逐艦が北ヴェトナムぐんにより攻撃を受けたとされる事件が起こり、ジョンソン大統領が議会から「攻撃阻止」を名目とする軍事措置をとるための特別権限が与えられる。65年2月にはアメリカ空軍による北ヴェトナム爆撃が始まった。トンキン湾事件は、のちに公表された国防省秘密報告書(ペンタゴンペーパーズ)から、アメリカ軍と南ヴェトナム軍によって計画された謀略であったことが明らかになった。アーレントはそれについては「政治における嘘」という論考で、国内や議会向けの嘘の意味とその「報告書」の「現実からの遊離」について論じた。真実と決定との間、諜報機関と一般の行政事務や軍務との間の関係、というより無関 係が、国防総省秘密報告書が露わにしたおそらく最も由々しき、そして間違いなく最 も厳重に監視されていたひみつなのである。(『暴力について』)
現実、リアリティを欠いたまま歴史が進行していくことは、人間がみずからの尊厳を手放すことでもある。ところが、「問題解決家」と称するエリートたちによって、かれらの「理論」を優先する「「イメージづくり」が熱狂的におこなわれた。事実や現実は無視されたのである。
今の日本を語られているようです。
最近の戦争を振り返っても、イラクの大量破壊兵器があるといって戦争をはじめたアメリカ。大量破壊兵器はありませんでした。ありませんでした、と後で認めても悪かったとは謝りません。保証もされません。
安倍首相は、「累次にわたる国連決議に違反したのはイラクであって、大量破壊兵器がないと証明できるチャンスがあるにも関わらず、それを証明しなかったのはイラクであったということは申し上げておきたい」と国会で言ったとか。イラクはない、国連もないようだと言っていたらしいのですが・・・。もう言ったもの勝ちの世の中。事実より操作されたイメージが勝つのが戦争です。
真実を変更する「あからさまな嘘」。自信を持って言ったものが勝つ。何度でも過ちを繰り返す。歴史を勉強する大事さが疎かにされている。