小柳ちひろ『女たちのシベリア抑留』
『女たちのシベリア抑留』 小柳ちひろ著 2019年 (文藝春秋)
BSIスペシャル「女たちのシベリア抑留」(初回放送2014年8月12日)のディレクター、小柳ちひろさんが書いた本である。
身近にシベリアから帰ってきた人を知っていた。とっくに亡くなっていて詳しくは聞いたことはなかったけど、奥さんから「警察が様子を見に来た」と話してくれたことがある。シベリア帰りは赤だと思われてのことみたいだ。「なにが赤だ。ただの飲んべいだ」と奥さんは笑っていた。
そのシベリアに女性も抑留されていた。この本に出てくる女性たちは日赤の看護婦さんたちだ。シベリアでも医療従事者として働いていた人もいる。そしてやっと帰ってきた日本。家族は喜ぶが世間の目は冷たかっただろう。「赤の国から来た」「女は強姦されたのではないか」という疑いの目。ほんとうに日本人は温かさがない。それにくらべてソ連の庶民のフレンドリーさ語られる。それでも祖国に帰ることだけを願って死なないで耐えてきたのだ。
いちばんは敗戦になると意気地のなくなる兵士たちの姿が哀れだ。哀れだと書いたが恥ずかしく反吐が出る。沖縄線でも日本兵は女子供を犠牲にして自分たちが生き残ろうとした。庶民の食べ物を奪った。
P52
「その時、若いお母さんたちのことを聞いたんです。開拓団の団長さんが『こどもは連れて行っても足手まといになるから、殺せ』と命令して、みんなで殺したんですって…。その時はもう、みんなで集団で頭が少しおかしくなっていたんでしょうね。(略)』
P59
軍司令部からの通達。「ソ連軍の要求するものは、抵抗せずに渡すこと、その第一は酒、第二は女」
P61
「虎林陸軍病院の陸軍看護婦長、佐藤節子は、ソ連兵が女を求めてやってくるたびに、庶務主任の下士官から「若い子を出せ」と命令され、床下に看護婦たちを隠して徹底的に抵抗した。ようやくソ連兵が立ち去ると、「婦長だけ残れ」と呼び出され、「俺たち軍人は命より大事な軍刀を手離した、女の貞操くらい何だ」と往復ビンタを加えられたという。
なんだかな。いまの日本が素晴らしい、日本が美しいとか言って外国人を排斥している人たちって、まっさきに女子供を犠牲にして、汚く自分たちが生き残ろうとする人たちと重なって見えてしまう。世界から逆行して、日本にはそういう時代が懲りずにまた来そうだ。
苦労してシベリア抑留から帰ってきた女性に恩給はない。
P237
ここで、日赤看護婦に対する戦後補償についてもふれておきたい。終戦後、旧陸海軍軍人には恩給が支給されたが、軍属はその対象外とされた。陸軍病院でいえば、同じように軍務に従事した衛生兵と看護婦との間で、歴然とした差別が存在していたことになる。
本書に出てきた女性たちは、家族に囲まれて穏やかに生活している人だったが、困窮の中、身寄りもなく死んでいった人もいたと思う。
男は戦地で女を強姦し、従軍慰安婦とセックスしようがおとがめなし。女は1回でも外人とセックスしようものなら、死ねと言われる。たかがセックスじゃないか。
シベリアの病院で日本人捕虜の男性たちの世話をしていた看護婦たち。「お母さん」と言って死ぬ男たちを同情していたけど、けっきょく元気がないと女性に優しくしてもらいたがり、元気があると女性を蹴とばす。彼女たちは職業意識から死にゆく兵隊さんたちに手を差し伸べていただろうけど、つくづく男に幻滅しただろう。そういう中で看護婦を守ろうとした医師や上司もいたので、男をひとくくりにしてはいけないと思うけど、男って弱くて卑怯だとつくづく思う。